Masukあれからは特になんの事件も起こることなく、穏やかな日常が続いた。 学校ではそこそこ噂になったりしたけど、だからと言って特に面倒なことが起こるという事もなかった。 そして、気が付けば春休みに突入していた。 「いやぁ~私のピカピカ一年生生活も終わっちゃったよ」 「これからは日向も二年生だね」 「これからって言っても、春休み明けだけどね」 「もうすぐじゃないか」 春休みは高校の長期休暇に中でも一番短い。期間は二週間ちょっとくらいか。 「湊くんは入学式の挨拶とかで学校に行かないといけないんでしょ?」 「うん。生徒会長挨拶とかでね。春休みの後半になったら何回か学校に行かないといけなくなるし。ちょっと面倒だよ」 「それも生徒会長の仕事だから仕方ないね~」 あの一件以降は、僕のことを生徒会長として不適格と言うような人もかなり少なくなって悠々自適に生徒会活動を出来るようになった。 中には、僕のことを日向を命がけで助けた救世主なんていう人も現れるくらいで。 自分の評価が変わり続けていて、自分自身少し戸惑っていたりする。 「でも、一番の驚きは神凪さんとかじゃない?」 「……ああ」 神凪先輩と水無月先輩は僕の生徒会長としての仕事が見たいから。なんて理由でまさかの留年をしてしまったのだ。 行動力のベクトルがあまりにもイカレているけど、それはそれであの二人らしくていい。いわく、二人は庶務でいいからあと一年間よろしく頼むよ。とのことだった。 「でもさ、本当にこの半年いろんなことがあったよね」 「だね。日向と付き合う事になったり、生徒会長になったりと。いろんなことが起こりすぎて自分でも目が回りそうだよ」 「私もだよ。まさか、湊くんと付き合うようになるなんて思ってもいなかったから」 「そうなのか?」 日向が昔から僕のことを好きでいてくれたのは少し前に聞いたけど。 「だって、高校に入ったら湊くんに彼女がいたんだもん。遅かったって絶望してたんだよ?」 「それは……なんかごめん」 「湊くんが謝るような事じゃないよ。今はこうして付き合えてるから問題なし!」 「あはは。そっか」 ほのかはあの事件の後で、精神病院に送られたらしい。色んな精神鑑定を受けた結果、統合失調症と診断されて現在は入院中だ。 どうやら、周囲から向けられる視線や
「大変だったらしいな~湊」 「聞いたわよぉ~日向ちゃんを命がけで守ったそうね」 「まあね。それよりもなんでいきなり帰ってきたの?」 「そりゃあ、仕事が落ち着いたからな。年末だし」 「そうよ。仕事の方もひと段落したし」 クリスマスイブから時は流れ年末。 十二月三十日。 後一日で今年が終わるという日に二人は帰ってきた。 「お久しぶりです。海斗さん。美波さん」 「久しぶりだな日向ちゃん。俺達がいない間、湊の面倒を見てくれてありがとう」 「本当にね。かなり心配してたんだけど。こうして湊の元気そうな顔を見れるのはあなたのおかげよ」 「いえいえ。私の方が湊くんに助けられてますから」 日向は少し畏まった感じで父さんと母さんに挨拶をしていた。付き合っていることはあらかじめ伝えていたけどこんな反応をされるとは思っていなかった。 「ふふっ、ならいいけど。湊も日向ちゃんを悲しませるようなことはしちゃだめよ?」 「しないって。そんなことをするくらいなら死んだほうがマシだから」 「簡単に死のうとしないの。湊が死んじゃったら一番悲しむのは日向ちゃんなんだから」 「それは確かに。命は粗末に粗末にするもんじゃないな」 ◇ 年末に母さんたちが帰って来たことで、僕たちの怪我が治るまでが家事を担当してくれることになった。 正直ありがたい。 「なんだか申し訳ないね」 「まあ、気持ちはわかるけど僕たちは怪我をしてるし小雪さんは家事ができないし。しょうがないよ」 「早く怪我を治さないと! ねっ湊くん」 「うん。でも、無理はしちゃだめだよ? 日向が一番傷が深いんだから」 僕の傷と違って、日向の傷はかなり深い。それに加えてほのかから逃げ回っているからその分かなり悪化しているらしい。 完治まではあと最低でも一ヶ月はかかるそうだ。 「わかってる。でも、せっかくのクリスマスとか年末年始なのに何もできなくてごめんね」 「気にしなくていいよ。クリスマスや年末年始は今年が最後ってわけじゃないしさ。ちゃんと元気になって来年たくさんあそぼうよ」 「来年も一緒に居てくれるの?」 「もちろん。僕はもう日向と別れるつもりなんかまったくないからね。前も言ったけど、日向がいない生活はもう考えられないんだから」 「じゃ、約束だよ! 来年は二人でいっぱい遊ぶって」
クリスマスイブと言うのに、僕がやっていることは普段とあまり変わらない。変わったことと言えば、いつもは日向がしている家事を僕がやっているという事くらいか。 「悪いな湊。怪我をしてるのに家事をやらせてしまって」 「良いですよ。小雪さんが家事出来ないのは知ってますし」 「面目ない。いつかは覚えようと思っているんだけどな。中々時間が無くて」 「忙しいですもんね。全然気にしないでください。そこまで苦でもないので」 小雪さんが申し訳なさそうにしているのを見ながら、僕は皿洗いをしていた。 リビングのソファーで日向は座ってゆっくりしていた。 「ごめんね湊くん。本当は私がやるべきなのに」 「良いって。いつもやってもらってるし。日向が怪我をしてる時くらいは僕がやらないと」 申し訳なさそうにしている日向に笑みを向けて、僕は黙々と皿洗いを進める。 こういう単純作業はそこまで嫌いじゃない。 「ありがとね。湊くん」 「気にしないでくれ。日向は怪我が早く治るように安静にしてて」 「私の目の前であまりイチャイチャしないで欲しいんだが。まあ、いいか」 小雪さんはため息をついて、うなだれている。 大丈夫。きっと小雪さんにもいい人が見つかります。 「そう言えば、湊くんの元カノはどうなったの?」 「あれは、警察に連れて行かれたよ。流石にその後のことは分かっていないけど」 「そうなんですね。とりあえず、みんな無事でよかったじゃないですか」 「だな。あの状況で死人が出なかったのは驚きだ」 佐山も死んではいないらしいし、結果として今回の一件で死人は誰一人として出ていない。その事に感謝をしつつ。 ◇ 「ねぇ湊くん」 「どうした?」 「クリスマスプレゼントが欲しい!」 「それは良いけど、何が欲しいの?」 最近は忙しすぎて、クリスマスプレゼントを用意する時間が無かった。 でも、何か欲しいって言うなら少し遅くなっても贈りたい。 「えっとね。キスしてほしい……かな」 「……そんなのでいいのか?」 「そんなのって……酷いなぁ。クリスマスイブに恋人にキスしてほしいって言う気持ちがわかんないのかな」 「いや、わかるんだけど。もっとすごい物をねだられるのかなと思ってたから」 「そんなことしないよ。ほら、キスして? ん」 そう言って日向は目を
「いろいろ終わったね。お疲れ様。湊くん」 「お疲れ様日向」 家に帰った僕たちは日向の部屋で楽しく会話をしていた。 車いすでの移動はかなり不便そうだし、早く完治してほしいと思う。 「湊くん、その怪我大丈夫なの? その腕で私のこおお姫様抱っこしてくれてたけど」 「大丈夫大丈夫。日向が思っているほど深い傷ではないからさ」 「絶対うそでしょ。あんなに深々とナイフが刺さってたのに」 「大丈夫だって。日向を助けれたんだから、これくらいの怪我大したことないよ」 腕にナイフが刺さったくらいで、日向の命を救えるのなら安いものだ。腕が吹っ飛ばされたわけでもないし。 「あの時、湊くんが言ってくれた言葉って本当?」 「言ってた事って?」 「世界で一番大切ってやつ」 「ああ、もちろん本当だし本心だよ」 僕は日向のことが世界で一番大好きだし、大切だ。 それだけは、これから何があっても絶対に変わらないんだと思う。 「凄く嬉しかったよ。私のことを助けてくれるヒーローみたいで」 「そんな大層なもんじゃないけどね。めちゃくちゃボロボロにされたし」 目立った傷は腕の傷だけど、他にも体の至る所に大小さまざまな傷が出来てしまっている。 「それでも……だよ。私にとっては白馬の王子様みたいだった」 「日向にそう思われるのは嬉しいな。ありがとう」 「お礼を言われるような事でもないんだけど」 少し困ったような顔をしながら、日向は笑いかけてくれる。 この笑顔を見ることが出来るだけで、僕は凄く幸せを感じることが出来る。 日向が隣にいない世界なんて想像できないし、したくもない。 「生きててくれてありがとう。日向」 「こちらこそ。助けてくれて本当にありがとうね」 ◇ 「湊、ちょっといいか?」 「どうしたんですか? 小雪さん」 「いや、少し話したい事があってな。少し私の部屋に来てくれないか?」 「全然いいですけど」 クリスマスパーティーが終わり翌日。 世間ではクリスマスイブと呼ばれる日の朝に僕は小雪さんに部屋に呼び出されていた。 「まずは本当にありがとう。君がいなかったらひなちゃんは殺されていたかもしれない」 「気にしないでください。僕は僕がするべきことをしただけです」 「君らしい答えだが、気にしないのは無理だな。君は妹の命の恩人
パーティーの結果を見れば大成功だった。 僕と日向が運営に参加をしなくても、小雪さんが加わったことで円滑に運営をすることが出来ており、パーティーに参加してくれたみんなの顔も笑顔に満ちていた。 「大成功だな。おめでとう夜霧会長」 「神凪会長。ありがとうございます」 「やめてくれ。私はもう会長じゃない。普通に神凪でいいさ」 「そう……ですね。神凪先輩」 「それでいい。聞いた話によると大変だったそうじゃないか。大丈夫だったかい ?」 会場内で神凪先輩に話しかけられる。日向も会場内にはいるけど休憩中の小雪さんに車いすを押してもらっているので、今の僕は一人だった。 「大丈夫……とはお世辞にも言えませんね」 「だろうね。その両腕、痛むかい?」 「少しは。でも、日常生活に支障をきたすほどではないですし。ちゃんと動きますしね」 僕は神凪先輩に安心してもらえるように、腕をプラプラ振って見せる。ほんの少しだけ差し込むような痛みが走るけど、表情を取り繕う。 「名誉の負傷と言う奴だな。誇ると良いさ。君は幼馴染君にとっての英雄になれたのだから」 「僕のせいで今回の事件に巻き込んでしまったという面もありますから。素直に喜ぶ権利なんか僕にはないですよ」 「君は相変わらず物事を難しく考え過ぎる節があるな。もっと楽観的に生きると良い」 「難しいですね。今までこういう考え方で生きてきたので」 僕がもっと付き合う相手をしっかり選んでいたなら、日向に怖い思いをさせずに済んだのに。 いや、そうなってしまったら僕と日向が付き合うという未来もなかったのかもしれない。 「そうか。いや、そう言う返答も含めて君らしいと言えば君らしいな。時間を取らせてすまない。私はもう行くよ」 「そうですか。今日は来てくださってありがとうございました」 神凪先輩はニコニコしながら、水無月先輩を引き連れて会場を後にした。 なんだか、ここに来てようやく一息つけるようなそんな気がする。 「やっと、一休みできる」 「そうはいかないね。うちの妹が君をご指名だ。ここの運営は私たちに任せて今日はもう家に帰ると良い。正直疲れたろ?」 「そうですね。では、お言葉に甘えてそうさせてもらいます」 僕は小雪さんに一礼をして、今も忙しそうに作業をしている隆介と秋奈さんに声をかけてから、日向
「お前、大丈夫なのか? 今日くらいは休んでも誰も文句は言わないと思うんだけど」「大丈夫。せっかく生徒会のみんなで準備したんだから、台無しにしたくないし。傷はそこまで深いわけじゃないからさ」 翌日、僕は終業式を終えて生徒会室で今日の夜におこなわれるクリスマスパーティーの準備をするために集まっていた。「そんな怪我したなら本当に休んでいていいんですよ? パーティーの運営位なら私と隆介先輩で大丈夫ですし」「そう言うわけにはいかないよ。僕も今日まで準備してきたんだし最高の形で成功させたいって思ってるから」「私もそう思ってるから、二人ともそこまで気にしなくてもいいよ。私も湊くんも見た目よりはボロボロじゃないから」「いや、日向さんはそもそも車いすだし。湊に至っては腕を包帯でぐるぐる巻きにされてるし」 ジト目で隆介に見られる。確かに、今の僕たちの状態はお世辞にも健康体とは言えなかった。 僕の両手はあまり使えないし、日向に至っては車いすがないと移動できないほどにボロボロにされていた。「ぐぬぬ」「そう言われると、私達も何も言い返せないかも」「夜霧先輩と日向さんはゆっくりパーティーを楽しんでください。私達でちゃんと運営しますから二人は会場で楽しんでいてくださいよ」 秋奈さんが僕たちに気を使って微笑みかけてくれる。 きっと、これ以上僕たちは何かを言っても運営に携わる事は不可能だろう。 ならば、二人の言葉に甘えて僕たちはパーティーを楽しんだ方が良いのかもしれない。「二人の言う通りだぞ。怪我人はおとなしくパーティーを楽しめばいい。今日のパーティーは私が二人の協力に当たるから」「小雪さん……いいんですか?」「当たり前だ。妹を助けてくれた命の恩人なわけだしな。と言うわけで二人とも。今日は二人の代わりに私が協力するからよろしく頼むぞ」「はい。お願いします望月先生」「お願いいたします」 生徒会室に入ってきていきなりそう言う小雪さんに隆介と秋奈さんの二人が揃って頭を下げる。 どうやら、僕と日向は確実にパーティー参加はするけど運営側に回ることはできないようだった。「そう言うわけで二人とも。今日は大人しくパーティーに参加だけすること。運営は私たちに任せてくれていいからゆっくりしろ」「だって。湊くん。どうする?」「ここまで言われたらそうするしかないだろ? あり